HLAの機能(HLAとNK細胞)
HLAの機能(HLAとNK細胞)
Natural Killer(NK)細胞は細胞殺傷能をもつパーフォリン、グランザイムBを有しており、標的細胞にアポトーシスを誘導することで、感作を必要とせずにウイルス、細菌などの感染細胞、腫瘍細胞などを傷害する。また抗体依存性細胞傷害活性(antibody-dependent cellular cytotoxicity; ADCC)を持ち、IFN-γをはじめとする殺細胞性サイトカインを分泌することによっても感染細胞、腫瘍細胞などを傷害する。このようにNK細胞は感染防御、抗腫瘍効果のほか、妊娠の維持、自己免疫疾患などの事象に関与し、生体の恒常性に寄与している。一方で、NK細胞は正常細胞を傷害しないため、正常細胞を見分ける何らかの標的認識機構の存在が推定されていたが、その実態は長い間不明であった。1980年代にKarreらが、NK標的細胞ではMHCクラスI抗原の細胞表面発現が著しく減少していることから、「NK細胞は自己MHC抗原を消失した細胞を傷害する」という”ミッシングセルフ説”を提唱した。その後、自己MHCクラスI抗原を認識して傷害性を抑制するような抑制性NK細胞受容体が多く発見され、併せて、活性型受容体も見出された。現在ではこれらのNKレセプターがMHC分子を認識し、NK細胞の細胞傷害活性を制御していると考えられている。MHC分子をリガンドとするNKレセプターには、ペア型受容体に属するKiller cell Immunoglobulin-like receptor (KIR)およびLeukocyte Immunoglobulin-like receptor (LILR)、CD94/NKG2ファミリーがある。
●Killer cell Immunoglobulin-like receptor (KIR)
KIR遺伝子は19番染色体長腕に位置し、15の抑制性と活性型の遺伝子から構成される。各KIR遺伝子には対立遺伝子が存在するため多型性であり、さらに遺伝子座自体の有無により大きく抑制型のAハプロタイプとそれ以外のBハプロタイプに分けられる。KIRはNK細胞と一部のT細胞に発現し、HLA-Cを中心に、HLA-A、HLA-BなどのHLAクラスI分子をリガンドとするペア型受容体である。これらは細胞外にイムノグロブリン様ドメインを2個(KIR2D)あるいは3個(KIR3D)もち、さらに細胞内領域の長さによってshort (S:活性型)とlong(L:抑制型)にわけられる。これらのレセプターがNK細胞やT細胞に発現し、各細胞の細胞傷害活性などを制御していると考えられている。KIRもHLAと同様、疾患との関連が多数報告され、特に腫瘍領域では、KIR2DL1/2/3を阻害する抗体療法が、臨床試験で検討されつつある。
●Leukocyte Immunoglobulin-like receptor (LILR)
LILR遺伝子は19番染色体長腕に存在し、2つの偽遺伝子を含め計13遺伝子で構成される。LILRファミリーは計11個の糖タンパク質受容体からなり、抑制性受容体(LILRB1-5)、活性化受容体(LILRA1、 2、 4-6)、分泌型受容体(LILRA3)が存在し、リガンドについてはいまだ同定されていないものが多いものの、LILRB1、B2は古典的HLAクラスI分子だけでなく、非古典的HLAクラスI分子も広範に認識する。KIRとLILRのアミノ酸配列の相動性は高いが、KIRに比べてLILRの多型性は低く、LILRB1が単球、マクロファージ、樹状細胞、B細胞、一部のT細胞、NK細胞など広範な免疫系細胞に発現しているほか、その他のLILRsも単球、マクロファージ、樹状細胞に発現している。LILRB1、B2ともにD1-D2ドメイン間ヒンジ領域とβ2mが、D1とα3ドメインが相互作用し、TCRやKIRの結合部位とは対照的であり、ぺプチド周辺は結合に関与しない。LILRはペプチドおよびHLAのアリル特異的に相互作用するTCRやKIRとは対照的な結合様式をもつ。LILRもKIR、HLAと同様、疾患との関連が多数報告されつつある。
●CD94/NKG2ファミリー
C型レクチン様受容体に分類されるNKG2ファミリー、CD94の各遺伝子はいずれも12番染色体短腕に位置する。NKG2とCD94はヘテロ2量体を形成し、非古典的HLAクラスI遺伝子であるHLA-EをリガンドとするNKレセプターを構成しており、NK細胞による認識において非常に重要な役割を果たす。NKG2ファミリーは7つのアイソフォーム(NKG2A、B、C、D、E、F、G、H)によって構成されている。NKG2はNK細胞の活性化制御に関与しており、アイソフォームによって活性型と抑制型に分かれている。CD94は細胞質内にシグナル伝達モチーフを持たないため、活性型抑制型の決定はNKG2の細胞質内モチーフによって決定される。NKG2C、NKG2E、NKG2Hは、膜貫通部分に荷電残基をもち、ITAMモチーフを持つアダプター蛋白質のDAP12と結合し、活性型のシグナルを伝達する。NKG2AとNKG2Bは、細胞質内にITIMモチーフを持ち、抑制型のシグナルを伝達する。NKG2DはCD94とヘテロ2量体を形成せず、またHLA-EではなくMICA/BをリガンドとするNKレセプターで、ITAMモチーフを持つアダプター蛋白質のDAP10と結合し、活性型シグナルを伝達する。
詳細は以下の参考資料を参照されたい。
(平成28 年度認定HLA 検査技術者講習会テキスト HLAの立体構造と免疫制御受容体の分子認識機構 黒木 喜美子 引用・改変)
参考資料
●平成28 年度認定HLA 検査技術者講習会テキスト HLAの立体構造と免疫制御受容体の分子認識機構 黒木 喜美子 https://doi.org/10.12667/mhc.23.80
●平成29 年度認定HLA 検査技術者講習会テキスト HLAとKIRシステム-基礎と臨床応用 八幡 真人 https://doi.org/10.12667/mhc.24.123
●日本組織適合性学会誌 2011 年 18 巻 3 号 p. 215-233 総説 第5回 NKレセプターとHLAの最前線 黒木 喜美子 https://doi.org/10.12667/mhc.18.215
●日本組織適合性学会誌 2018 年 25 巻 3 号 p. 187-195 総説 慢性骨髄性白血病におけるKIRアレル多型の臨床的意義 進藤 岳郎 https://doi.org/10.12667/mhc.25.187
●日本組織適合性学会誌 26 巻 2 号 p. 84-94(2019)J-STAGE掲載 HLAの基礎知識―認定試験問題から―:木村彰方 https://doi.org/10.12667/mhc.26.84
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