マイナー組織適合抗原
マイナー組織適合抗原
マイナー組織適合抗原(minor histocompatibility antigen、mHA)はMHCクラスI(ときにMHCクラスII)分子に提示されるペプチドの多型性である。ヒトのマイナー組織適合抗原はライデン大学のグールミー(E. Goulmy)らにより、抗血清にあたる細胞傷害性T細胞(Cytotoxic T cell、 CTL)クローンの樹立、ペプチドの抽出ト精製、アミノ酸シークエンス、ゲノム上のホモロジー検索、DNAタイピング、臨床データとの関連解析による確認などのステップを踏んで1つずつ明らかにされてきた。
マイナー組織適合抗原のHLA拘束性
マイナー組織適合抗原は、古典的なタンパク質、脂質や糖鎖抗原でないCTLのターゲットとなるべきペプチド抗原である。ペプチド抗原は、核あるいはミトコンドリアで合成されたタンパク質分子が細胞質内で処理されたペプチドで、小胞体内でHLAクラスI分子にのせられる。細胞内小器官の構成分子や細胞内に限局する酵素、タンパク質のシグナルペプチド、ミトコンドリアDNAの産物などもマイナー組織適合抗原の候補となる。HLA分子は、その抗原ペプチド受容部位に高度の多様性があり、ペプチド結合部位のアミノ酸配列が異なるHLA分子ごとに受容できる抗原ぺプチド特異性をもっている。すなわち、HLA分子ごとに提示されるマイナー組織適合抗原が規定される。
マイナー組織適合抗原の臓器特異性
T細胞の活性は、ある閾値以上のシグナルがT細胞レセプターを介して得られるとき、開始される。マイナー組織適合抗原に対してアロ免疫反応が開始されるためには、抗原ペプチド・HLAクラスI複合体が、細胞上に十分な密度で提示される必要がある。そして、誘導された抗マイナー組織適合抗原-T細胞はマイナー組織適合抗原のもとになるタンパク質やシグナルペプチドが高度に発現される細胞・組織を標的として特異的に傷害する。このような点から、マイナー組織適合抗原は、HLAと異なり組織特異性があるといわれている。
マイナー組織適合抗原の臨床的意義
臨床的に定義されるマイナー組織適合抗原はHLA一致同胞間(HLA identical sibling)の造血幹細胞移植において生じる移植片対宿主病(graft versus host disease、GVHD)の原因となる。HLA一致同胞間の造血幹細胞移植においてCTLのターゲットはHLA分子結合している抗原ペプチドとなる。HLA分子に提示されるペプチド部分に多型性があり、これがドナー・レシピエント間で異なればCTLのターゲットとなる。一方、抗白血病効果(graft versus leukemia effect、GVL効果)の主たるターゲット分子もまたマイナー組織適合抗原であり、この場合は、白血病細胞の除去を期待できる。マイナー組織適合抗原は臨床的に治療の標的分子でもあり、病態の悪化にもつながる分子である。現在ではCAR-T療法などに応用した新規治療法に繋げる研究が進められている(参考文献1)。
GVHD;ドナーのCTLがレシピエントのアロ抗原を認識し、それを表現する細胞を傷害する現象。
※移植・輸血検査学(猪子英俊・笹月健彦・十字猛夫監修)(2012年第2刷、講談社)
マイナー組織適合抗原 を一部改変して掲載
参考資料
- 日本組織適合性学会誌 14 巻 2 号 p. 177-189(2007)J-STAGE掲載 同種造血幹細胞移植におけるマイナー組織適合性抗原の臨床的意義、村田 誠https://www.jstage.jst.go.jp/article/mhc/14/2/14_177/_pdf
- 移植・輸血検査学(猪子英俊・笹月健彦・十字猛夫監修)(2012年第2刷、講談社)
参考文献
1.TCR-Like CAR-T Cells Targeting MHC-Bound Minor Histocompatibility Antigens、Yoshiki Akatsuka* Front Immunol. (2020)11:257. (doi:10.3389/fimmu.2020.00257. eCollection 2020.)
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