HLAの機能(HLAとT細胞)

HLAの機能(HLAとT細胞)

HLA分子のT細胞の抗原認識機構は、必ず自己のMHC分子と外来抗原との共存が必要である。自己のHLAクラスII分子と消化されたペプチドとの複合体をヘルパーT細胞(Th)が認識することにより免疫応答反応が開始される。このような現象をMHC拘束性と呼んでいる。ウイルス抗原は、マクロファージまたはウイルス感染細胞に提示される。提示されたウイルス抗原は、自己のクラスI抗原分子と共に細胞傷害性T細胞(Tc)により認識され、細胞傷害性T細胞により直接破壊される。

●HLAクラスI分子の抗原提示機構とT細胞相互作用

HLAクラスI分子は、すべての有核細胞において発現している。核の無い細胞のうち、血小板はHLAクラスI分子を発現しており、赤血球は発現していない。HLAクラスI分子はα鎖とβ2ミクログロブリンが会合して出来ており、細胞の膜に結合してその大部分を細胞外に発現する膜結合型蛋白質である。HLAクラスI分子の先端部分(細胞膜から最も遠い部分)には、α鎖のα1およびα2ドメインによりペプチドを収容する溝が形成されている。

このHLAクラスI分子の溝に、内在性抗原、すなわち細胞質に存在する蛋白質、あるいは、細胞に感染したウイルスなどの蛋白質に由来するペプチドが結合して細胞表面に発現する。まず、これらのタンパク質にユビキチンが結合したものが、プロテアソームと呼ばれるタンパク質分解装置に取り込まれ分解される。その結果、タンパク質は9個前後のアミノ酸からなるペプチド断片となり、ペプチドトランスポーター(TAP)により小胞体内腔へと輸送される。小胞体の内側で、HLAクラスIの重鎖-β2ミクログロブリン(β2M)-ペプチドの複合体が形成され細胞表面へ輸送され、CD8陽性キラーT細胞へ提示される。

HLAクラスI結合性ペプチドは8~12個(主に9個)のアミノ酸からなるペプチドで、両端(NおよびC末端側)のアミノ酸残基(アンカー残基)がクラスI分子の先端のペプチド収容溝に存在する窪み(ポケット)にうまく収容されると、ペプチドはHLAクラスI分子に結合する。HLAの型によってポケットの構造が異なっている。従って、そこに結合できるアンカー残基の種類は、HLAの型によって異なる。

感染等のない正常な細胞では、細胞表面に存在する HLAクラスI分子はその細胞内に存在するタンパク質由来のペプチドを結合している。後述するように、このような自己の HLAクラスI分子と自己由来のペプチドの複合体を認識するT細胞は、その分化の過程でほとんどが除かれていて非常に頻度が低く(胸腺細胞の負の選択)、また、体内に存在しても反応しない状態になっている(免疫寛容(トレランス)の成立)。一方、ウイルスが細胞に感染したり、細胞が腫瘍化して異常な蛋白質を作るようになると、これに由来するペプチドがHLAと共に細胞表面に発現し、CD8陽性細胞傷害性(キラー)T細胞がこれを認識して標的細胞を傷害し細胞死を誘導する。つまり HLAクラスI分子は、ウイルス感染細胞や腫瘍細胞の排除に重要な役割を担っている。

●HLAクラスII分子の抗原提示機構とT細胞相互作用

HLAクラスII分子は、樹状細胞、マクロファージや B 細胞などの、いわゆるプロフェッショナル抗原提示細胞に発現する。また、ヒトでは抗原を認識し活性化状態にある T細胞などにも発現する。HLAクラスII分子はα鎖とβ鎖が結合して出来ており、細胞膜に結合してその大部分を細胞外に発現する膜結合型蛋白質である。HLAクラスII分子の先端部分(細胞膜から最も遠い部分)には、α鎖のα1ドメインおよびβ鎖のβ1ドメインから形成されるペプチド結合部位が存在する。

樹状細胞などの抗原提示細胞は、外来性抗原、すなわち細胞外あるいは細胞膜に存在する蛋白を取り込み、これをエンドソーム中に存在する蛋白分解酵素により限定分解してオリゴペプチドを産生する。一方、HLAクラスII分子は、小胞体において合成されエンドソームへ輸送される。その後、エンドソーム系の小胞において HLAクラスII分子は抗原ペプチドと会合し、HLAクラスII分子-抗原ペプチド複合体が細胞表面へと輸送されて CD4 陽性ヘルパーT細胞へ提示される[図 2]。クラス II に結合する抗原ペプチドはクラスI結合性ペプチドより長く、通常13~23個のアミノ酸からなる。ペプチド上で数個のアミノ酸を隔てて位置する2~5個のアミノ酸残基(アンカー残基)の側鎖が、HLAクラスII分子のペプチド゙収容溝にある大小数個のポケットに収容され、HLAクラスII分子との結合に重要な役割を担っている。

感染性微生物などが生体内に侵入してきた場合、生体内各組織に分布する樹状細胞がこれを捕捉し、リンパ節などの所属リンパ組織へ遊走し、その微生物由来のペプチドを HLAクラスII分子に結合させ複合体として提示する。CD4 陽性ヘルパーT細胞の T細胞レセプターがこれを認識すると、増殖し、また種々のサイトカインを産生する。この際に CD4分子は、HLAクラスII分子のβ2 ドメインに結合して、T細胞による抗原認識を補助すると共に細胞内に活性化シグナルを送る。活性化された CD4陽性ヘルパーT細胞は、IL-4の作用および細胞同士の直接の接触を介してB細胞を増殖させ、形質細胞への分化を誘導して抗体産生を促す。また、IL-2、IL-4、GM-CSF、INF-γなどの作用により、CD8 陽性キラーT細胞の増殖と活性化、および抗原提示細胞の増殖と分化を誘導する。非自己抗原が存在しない場合には、自己の細胞膜蛋白あるいは分泌蛋白に由来するペプチドが HLA と結合するが、CD8陽性キラーT細胞の場合と同様に、この自己 HLA-自己ペプチド複合体を認識する CD4陽性T細胞は通常存在しないか、存在しても免疫応答を示さない(免疫寛容の成立)。

上記のように、HLAクラスI分子は内在性抗原、HLAクラスII分子は外来性抗原を、それぞれCD8陽性T細胞、CD4陽性T細胞に抗原提示するが、実際には外来性抗原をHLAクラスI分子で提示する機構も存在し、これを交差提示(クロスプレゼンテーション、cross presentation)という。この機構には内在性抗原をHLAクラスII分子で提示する機構も含まれる。このクロスプレゼンテーション機構により、抗原提示細胞における抗原提示の効率が高まる。

詳細な内容は以下の参考資料を参照されたい。

(平成16年度年度定HLA 検査技術者講習会テキスト III. HLA 分子の構造と機能: 移植免疫との関連より、一部改変)

 

参考資料

●平成16年度年度定HLA 検査技術者講習会テキスト III. HLA 分子の構造と機能: 移植免疫との関連 千住 覚 https://drive.google.com/file/d/1kGC8AA-sIWlNKGpqESBmTRur3OaPrRI1/view

●平成28年度認定HLA 検査技術者講習会テキスト HLAの立体構造と免疫制御受容体の分子認識機構 黒木 喜美子 https://doi.org/10.12667/mhc.23.80

●日本組織適合性学会誌 2013年20巻2号 p.109-120 平成25年度認定HLA検査技術者講習会テキスト アロHLA抗原に対する拒絶反応の基礎免疫学 入江 厚  https://doi.org/10.12667/mhc.20.109

●日本組織適合性学会誌 2016年23巻2号 p.115-122 総説 HLAの基礎知識1 小川 公明  https://doi.org/10.12667/mhc.23.115

●日本組織適合性学会誌 28巻2号 p.83-93(2021)J-STAGE掲載 HLA DNAタイピング検査技術:東史啓 https://doi.org/10.12667/mhc.28.83

●日本組織適合性学会誌 26巻2号 p.84-94(2019)J-STAGE掲載 HLAの基礎知識―認定試験問題から―:木村彰方 https://doi.org/10.12667/mhc.26.84

●医系免疫学 改訂16版 矢田純一 著 中外医学社

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