理事長挨拶
この度、2022年9月より日本組織適合性学会 理事長を拝命いたしました湯沢賢治です。
日本組織適合性学会の「組織適合性」とは生物・ヒトの細胞・組織・臓器を移植した際に移植が成功するカギとなる組み合わせの違いを現す性質のことで、ヒトでは白血球の型のとして1954年に発見されました。この白血球の型はHLA(Human Leukocyte Antigen:ヒト白血球抗原)と呼ばれており、ほぼ全ての細胞と体液に分布していることがわかってきました。HLAは他の脊椎動物にもあり、この遺伝子領域は主要組織適合性複合体(Major Histocompatibility Complex: MHC)と呼ばれています。(本学会の学会誌は「MHC」と称しています。)
HLAは自己と非自己の識別など免疫反応に重要な役割を果たし、免疫機能をつかさどる分子のため、臓器移植や造血幹細胞移植の臨床において利用されてきました。最近では、複数の疾患で特定のHLAと強い相関があることが明らかになったり、法医学での親子血縁関係の確認、人種や民族におけるHLA頻度が異なることからヒトの移動や拡散の推定にも使われています。
この「組織適合性」、ヒトのHLA、生物のMHCの広く臨床、基礎、検査に関わる学会が日本組織適合性学会です。このため、本学会の英文名は「Japanese Society for Histocompatibility and Immunogenetics」(組織適合性と免疫遺伝の学会)としています。
日本組織適合性学会は、1972年の日本組織適合性研究会が組織されたことに始まり、50年の歴史があります。1973年に第1回研究会が開催され、1992年から日本組織適合性学会となりました。この研究会から学会への流れの中で、組織適合性に係わる基礎医学分野での研究の推進、組織適合性検査に関わる技術の発展や臓器移植・再生医学分野への貢献など、本学会の活動が大きく広がり、本学会の社会的重要性が認識されています。
臓器移植医療における組織適合性検査については、本学会が唯一無二の直接係わる学術団体であり、それを支える基礎研究から臨床での検査方法の開発、その信頼性の維持など、多くのことが本学会に求められています。現在、本学会が実施している組織適合性検査精度管理は、日本臓器移植ネットワークにおける死者から提供された臓器配分の根底にかかわる組織適合性検査の精度を担保するものとして、極めて大きな社会的責任を持っております。また、このような社会的責任のもとに、組織適合性検査を担当する者として認定HLA検査技術者、そしてそれを指導するものとして認定組織適合性指導者の認定制度を2002年に確立し、更に検査を担当する施設として認定組織適合性検査施設を認定する認定制度を2018年に確立いたしました。
日本組織適合性学会は、このような社会環境の中で学術団体としての立場を明確にし、本学会が行っている組織適合性検査の精度管理、組織適合性検査技術者および検査施設の認定制度に公的な意味を付加するため、2020年に社会的に認知された法人格を取得し、「一般社団法人 日本組織適合性学会」と改組しました。
私は、医師になって3年目の1984年に臓器移植の道を志し、この年に本学会(当時は研究会)に入会しました。その後、一貫して臓器移植の外科臨床を専門として参りました。38年前には、現在のように有効な免疫抑制薬がなく、臓器移植成績向上のためには組織適合性を合わせることしか出来ず、本学会には多くの移植医が参加していました。その後、免疫抑制薬の劇的な進歩により移植成績が向上したことで、臓器移植における組織適合性の意義が薄れてしまった感があり、本学会から多くの移植医が去りました。しかし、現在、臓器移植の臨床の現場では、高感度クロスマッチ検査の導入や抗体陽性症例に対する処置、抗体検査の意義が明らかになり、移植臨床への本学会の回帰が求められています。
日本組織適合性学会の発展のため、理事長として一移植外科医が出来ることには限りがあります。広く、多くの分野の会員諸氏のお力添えお願い申し上げます。
一般社団法人 日本組織適合性学会
理事長 湯沢賢治