HLA分子の構造

HLA分子の構造

HLAクラスI領域における古典的クラスI遺伝子としてHLA-A、-B、-Cの三種類の遺伝子座があるが、非古典なクラスI遺伝子としてHLA-E、-G、-F 座等がある。これらの遺伝子座は、クラスI分子の H(α)鎖をコードしている。HLAクラスII領域における古典的なクラスII遺伝子として HLA-DR、-DQ、-DPの三種類の遺伝子座があり、クラスII分子を構成するα鎖とβ鎖は、それぞれ近接して存在しているA遺伝子とB遺伝子でコードされている。HLA-DR遺伝子には、1つのDRA遺伝子と 9 種類の DRB 遺伝子(HLA-DRB1-DRB9)があり、DRB2、6、7、8 および9は偽遺伝子であるが、DRB1、3、4、5遺伝子は発現されており、中でもDRB3、4、5 については、ハプロタイプにより保有する遺伝子座の種類が異なっている。

1. クラスI抗原の構造

  クラスI抗原は、遺伝的多型性に富み、抗原決定基を有している44kDa(キロダルトン)の膜結合型蛋白のα鎖と、第15染色体の支配を受ける分子量11kDaのβ2-ミクログロブリン(β鎖)とによって構成されている。クラスI抗原遺伝子は、もっとも有名なA、B、C遺伝子以外にも、E、F、Gなどの遺伝子が同定されている。 クラスI抗原の立体構造については、BjorkmanらによるX線解析により、HLA-A2が決定されている。βストランドN末端からC末端にかけて矢印模様で示されている。αヘリックス構造は、ラセン状のリボンで示されている。α1ドメインのN末端はNで示されている。またα2ドメインのC末端は、αヘリックス構造の左端に示されている。クラスI抗原α鎖遺伝子の構造は、8個のエキソンと7個のイントロンからなっている。遺伝子の全長は約3.5 kbである。このうちα1、α2、膜結合領域には各抗原遺伝子間での変異が認められている。またα3ドメインは、免疫グロブリンの不変領域とアミノ酸レベルでの相同性を示すことが知られている。 一方、二次元等電点電気泳動 による生化学的な抗原分子の泳動パターン解析から、血清学的に同一の特異性であってもアミノ酸レベルではそれぞれに差異が確認されている。

2. クラスII抗原の構造

クラスII抗原は34 kDaの糖蛋白(α鎖)と29 kDaの糖蛋白(β鎖)とが非共有結合 (heterodimer) した細胞膜抗原である。基本的にはクラスIと同様な立体構造を形成している。 DR4抗原にはD特異性により、Dw4、Dw10、Dw13、Dw15およびDKT2などに分けることができる。これらの抗原を二次元電気泳動で解析すると、α鎖はどの抗原でも同じ位置にスポットされるが、β鎖はそれぞれ異なった位置に沈降することが分かっている。またDNAの塩基配列の解析によってもそれぞれのβ鎖の塩基配列に相違が認められている。クラスII抗原遺伝子は7個のα鎖遺伝子と7ないし8個のβ鎖遺伝子が認められている。DRのβ鎖遺伝子数は、ハプロタイプ により異なっていることが知られている。DR抗原は1種類のα鎖と4種類のβ鎖の内の1つとが会合してDR1~DR18抗原、DR51抗原、DR52抗原、DR53抗原を形成している。その他の5種類のβ鎖遺伝子にはいくつかの変異が認められ、偽遺伝子と考えられている。DQ遺伝子領域は2対のα鎖遺伝子とb鎖遺伝子を含んでいるが、遺伝子には異常が見られないものの、α2鎖遺伝子とβ2鎖遺伝子のcDNAクローンおよび遺伝子産物が未だに同定されていない。DP遺伝子領域もDQ同様、2対のα鎖遺伝子とβ鎖遺伝子を含んでいる。しかしながら、α2鎖遺伝子とβ2鎖遺伝子とにはいくつかの変異が認められ偽遺伝子と考えられている。その他の遺伝子としてDM、 DNやDOが確認されている。クラスII抗原は、遺伝子、蛋白質レベルにおいても類似した構造をとり、それぞれに60~70%の相同性が認められている。 クラスII抗原α鎖遺伝子の構造は、5'非翻訳領域 (5'UT)、リーダー配列 (L) を含むエキソン1、α1ドメインを含むエキソン2、α2ドメイン、結合ペプチド (connectingpeptide; CP) を含むエキソン3、膜結合領域 (trans-membrane region; TM)、細胞内領域 (intracytoplasmic region; CY) を含むエキソン4および3'UTを含むエキソン5とからなり、α鎖遺伝子の全長は約5 kbである。 一方、クラスII抗原β鎖遺伝子の構造は、5'UT、リーダー配列を含むエキソン1、β1ドメインを含むエキソン2、β2ドメインを含むエキソン3、TMを含むエキソン4、CYを含むエキソン5、および3'UTを含むエキソン6とからなっている。しかしながらDQβ鎖遺伝子のエキソン5は使用されておらず、またDPβ鎖遺伝子のエキソン5にはストップコドンがあってエキソン5は全体が非翻訳領域になっている。β鎖遺伝子の全長は約7 kbである。

参考資料

●日本組織適合性学会誌  28 巻 2 号 p. 83-93(2021)J-STAGE掲載 HLA DNAタイピング検査技術:東史啓 https://doi.org/10.12667/mhc.28.83

●日本組織適合性学会誌 26 巻 2 号 p. 84-94(2019)J-STAGE掲載 HLAの基礎知識―認定試験問題から―:木村彰方https://doi.org/10.12667/mhc.26.84

●日本組織適合性学会誌 23 巻 2 号 p. 115-122(2016)J-STAGE掲載 総説HLAの基礎知識1:小川公明 https://doi.org/10.12667/mhc.23.115

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