HLA以外の抗原提示分子

●CD1

CD1は第1染色体に位置する遺伝子で、多型性はない。HLAクラスI様の分子で、ペプチドではなく脂質や糖脂質を抗原として提示する。ヒトCD1分子は、CD1a、1b、1e、1d、1eの5つのアイソフォ ームを持ち、配列相同性から グループI、II、IIIの3 つのグループに分類される(グループI: CD1a、1b、1c、グループII: CD1d、グループIII: CD1e)。グループI、IIのCD1分子は抗原を提示するが、CD1eは細胞表面に発現せず、抗原を提示しない。CD1eはエンドソーム・リソソームのネットワークを行き来し、抗原を他のCD1分子に受け渡す役割を果たすと考えられている。グループIに属するCD1分子はげっ歯類類では保存されていないが、他の哺乳類(ブタ、イヌ、ウシ、ウサギなど)では保存されている。CD1は他のMHCクラスI様分子と同様、α1、α2、α3ドメインによって構成され、β2m とヘテロニ量体を構成する。α1-α2ドメインのリガンド結合ポケットは、MHCクラスIと比較して、狭く深い溝となっており疎水性の残基が並び、脂質抗原の糖脂質アシル鎖の結合に適した構造をとっているため、脂質や糖脂質抗原を提示する。グループIに属する分子(CD1a、CD1b、CD1c)は樹状細胞などに発現し、微生物由来糖脂質(結核菌の膜成分であるミコール酸など)を多様なTCRを発現するT細胞に提示することにより感染防御に寄与している。他方、グループII に属するCD1dは樹状細胞、マクロファージ、B細胞などの抗原提示細胞に幅広く発現し、NKT細胞に発現しているTCRによって認識される。

●MICA/B

MHCクラスI類縁分子であるMICA/B(MHC class I chain-related gene A/B)は、第6染色体のHLA領域に存在する遺伝子である。HLA分子ほど多くはないが多型性であり、それにより膜結合性のものと可溶性のものが存在する。MICA、MICB 遺伝子の転写調節領域には熱ショックエレメントが存在しているため、MIC 遺伝子の発現は熱ショックをはじめとするさまざまなストレスによって誘導される。一般に、MIC 分子は、感染細胞や癌細胞での発現が有意に高く、正常細胞表面にはほとんど発現していない。感染や癌化によりストレスを受けた細胞は、MICA、MICB分子を発現するようになり、NKG2Dを介して活性化されたNK 細胞によって破壊される。MICA/Bの膜遠位ドメインの溝にはペプチド断片もそれにかわるリガンドも結合していない。これらはNK細胞活性化レセプターであるNKG2Dのリガンドであり、NK細胞を活性化する。

(2011年度HLA 検査技術者講習会テキスト「非古典的MHCクラスI分子の多様な機能」笠原正典先生、平成28 年度認定HLA 検査技術者講習会テキスト「HLAの立体構造と免疫制御受容体の分子認識機構」黒木 喜美子先生 引用・改変)

参考資料

●平成23年度認定HLA 検査技術者講習会テキスト 非古典的MHCクラスI分子の多様な機能 笠原正典 http://jshi.umin.ac.jp/certification/file/lecture_text2011.pdf

●平成28 年度認定HLA 検査技術者講習会テキスト HLAの立体構造と免疫制御受容体の分子認識機構 黒木 喜美子 https://doi.org/10.12667/mhc.23.80

この記事のpdfはこちら